03-5207-2808 info@cgsao.com

こんにちは、千代田区神田の会計士・税理士の馬場です。

今回は個人事業として経営している人が法人化(法人成り)する場合についてのお話しをします。

第1回目は、「法人成りのメリット・デメリット」と「法人成りのタイミング」、第2回目は「法人成りする場合の税務上の留意点」と「法人成りの手続き」となります。

今回は第1回目です。個人事業から法人成りしようと考えている方は是非ご参考にしてください。

 

法人成りのメリット・デメリット

 

すでに個人事業をしている方は、ある程度の規模になると「法人成り」したらいかがでしょうか?などとよく言われるのではないでしょうか?「法人成り」とは個人としてやっていた事業を、法人を設立して会社としてやっていくことです。

これだけのことなのですが、個人と会社では関係する法律が違いますので、それに伴っていろいろなメリット・デメリットが発生してきます。

法人成りする場合には、一般的に下記の様なメリットとデメリットがあります。

 

メリット

①信用が高まる

個人より法人として事業をした方が、取引先や金融機関からの信用力が強くなるというメリットがあります。

特に大手企業などは個人事業者とは直接取引をしないといったことがあります。そのために法人成りする場合もよくあります。大手の企業は、一般的に取引相手に与信力や安定供給を求めますので、事業規模が小さく不安定と見られがちな個人事業より、ある程度の企業規模と推測される法人と取引をすることを好む傾向にあります。

また、金融機関は、法人化した方が与信枠が大きくなりますので融資の金額も大きくなります。なぜなら、法人成りすると会社に対する与信以外に、連帯保証として経営者に対しても与信枠を取れるからです。

②経営の透明化

個人事業の場合は個人の財産と法人の財産が明確に分かれていなくても構いませんが、法人成りすると法人の財産と個人の財産を明確に区分する必要があります。

それは、法人へ拠出した資本金、法人が購入した資産、法人が稼いだ利益など、それらは法人の所有財産であって、個人の所有物ではないからです。

このように法人成りすると個人と法人の所有物が明確に分けられることから、会社の財政状態や経営活動の成果が捉えやすくなります。

③事業承継がしやすくなる

後継者に事業承継する場合や、事業を第三者に売却(M&A)する場合、個人事業ですと事業譲渡の方法しかありません。事業譲渡は、引き継ぐ財産、権利、負債について、個別に名義変更の手続きをする必要がありますので、結構面倒な手続きになってきます。

しかし、法人化していると事業譲渡のほかに会社の株式の売却や贈与といった株式異動だけで事業の継承を完了することができます。個別に名義変更の手続きをする必要はありませんので、事業譲渡に比べると非常に楽な手法です。

④税務上のメリット

1.収入が役員報酬になるため所得税が減る

個人事業の場合、収益から経費を引いたものが事業主の取り分(事業所得)となりますが、基本的にはその取り分に対して所得税がかかってきます。

一方、法人成りした場合には、社長の収入は役員報酬というお給料となります。お給料の場合、給与額面金額から給与所得控除額を差し引くことができますので、個人事業の場合の所得税より税金が安くなります。

2.親族に対して役員報酬・給与を支給することができる

個人事業の場合でも、親族に青色事業専従者給与として給与を支払うことができます。しかし、青色事業専従者給与の場合は事前に税務署に、支給する人の名前、金額、支給時期、職務の内容などを明記した届出を出しておく必要がります。また事業への従事割合に対しての制約などがあり、結構面倒な対応が必要となります。更に、奥さんやお子さんなどの経営者と一緒に暮らしている親族(生計を一にする親族)に対して青色事業専従者給与を支払うと、支払い金額にかかわらず控除対象配偶者や扶養親族とすることができなくなってしまいます。

一方、法人では親族に対して支払った給与は特に届出を出さずに経費とすることができます(ただし、適正な金額の範囲内です)。また、一定の金額以下であれば控除対象配偶者や扶養親族とすることもできるのです。

個人事業である程度の所得となっている人は、累進税率により税率が高くなり支払う所得税も多額になっているものと思われます。

法人成りして親族へ給料を支給することで、一人で負担にしていた所得が家族に分散され、また、家族それぞれが給与から給与所得控除額を差し引くことができるため、税金をかなり下げることが可能となります。

3.退職金

退職金に対する所得税は、給料などの所得税に比べて非常に低く抑えられています。しかし、個人事業主ですと経営者自身や事業専従者に退職金を支払うことはできません。

一方、法人の場合には、適正な金額内であれば経営者や親族に対しても退職金を支給することができるのです。

うまく法人を活用することで、効率的にリタイア後の資金を形成することが可能となります。

4.保険料の損金算入

一般的に法人成りすると経費計上できる範囲が増えますが、その範囲が顕著に増えるのが生命保険などの保険料です。

個人事業の場合、どんなに保険料を支払っても所得から差し引ける金額は上限12万円と決まっています。節税効果としてはほとんど期待できません。

一方、法人を契約者として保険料を支払いますと、半分もしくは全額を経費とすることができますので、法人税の節税に大きな効果を発揮します。(注:損金算入額は保険商品の内容により異なります)

生命保険を活用して退職金の準備や経営リスクの備えをするのであれば、節税効果が大きい法人で活用した方がより大きな効果を得ることができます。

5.欠損金の繰越

経営をして行く上で、ときとして赤字決算になることもあります。税法上、赤字決算の金額は、一定の条件のもと翌年以降に繰り越され、その翌年以降の利益と相殺することが認められています。相殺することによって、その年の税金を減らすことができます。

この翌年以降に繰り越される赤字額のことを「繰越欠損金」と呼びます。

繰越欠損金は個人事業の場合もありますが、個人事業は3年間しか繰り越すことができません。

一方、法人の場合には9年間も繰り越すことができます。更に、平成30年4月1日から始まる事業年度で発生した繰越欠損金の繰越期間は10年間となります。

6.設立直後の消費税の納税義務の免除

個人事業でも事業開始してから2期間は原則として消費税の納税義務が免除されています。法人の場合でも資本金が1,000万円未満であれば、原則として設立後2期間は消費税の納税義務が免除されます。

法人成りした場合にも、資本金を1,000万円未満とすれば、原則として設立後2期間は消費税の納税義務が免除されますので、これまで個人事業者として消費税を納めていた人も法人成りした後の2期間は、原則として消費税の納税が免除されます。

しかし、ここで注意しなければならないのは、消費税法には「特定期間の課税売上高による免税事業者の判定」という制度があり、上半期の売上高が1,000万円を超えた場合には、その翌年は消費税の免税を受けることができなくなります。

つまり、設立1年目の上半期で売上高を1,000万円を超えたら、2年目から消費税の納税義務が発生してしまうことになります。(ただし、これに関しましても例外があります。複雑な規定となっておりますので法人成りする前に専門家に相談することをお勧め致します。)

消費税の免税は、法人成りする際の大きなメリットではありますが、そればかりに捉われれていると他のメリットを失うこともあります。事業を継続していくためには、バランスよく検討することが必要です。

 

デメリット

①お金の自由がなくなる

個人事業の場合、事業で稼いだお金は事業主のものとなりますので、自由に出し入れすることができます。一方、法人化すると法人が稼いだお金は法人の所有物になりますので、社長と言えども自由に法人のお金を使うことができなくなります。

法人成りしたら社長はお給料からしかお金が使えなくなります。もし、お給料以外のお金を法人から引き出すと「短期貸付金」となり、利息を付けて返済しなければなりません。また、法人が金融機関から借入れをしていながら社長に貸し付けを行うと、金融機関は又貸しをしていると捉え非常に嫌がります。

ただ、法人成りすると金融機関から与信力が増すのは、法人にするとこのように経営者が自由にお金を使えないような仕組みになっているからとも言えます。

自由にお金を使いたい人は個人事業のままにしておく方が良いかもしれません。

②法人維持コストの発生

法人成りすると、下記のコストが発生・増加します。

1.法人設立費用

法人を設立する際に、登録免許税や定款認証手数料が発生します。合同会社であれば最低60,000円、株式会社であれば最低200,300円かかりますが、司法書士に依頼する場合には、これに手数料が数万円加算されます。

2.登記費用

法人成りすると、会社法で定められて事項について登記しなければなりません。具体的には、社名、会社の住所、資本金の額、代表者の氏名、住所、他の役員の氏名などです。これらの登記された事項について変更があった場合、速やかに法務局へ変更の登記を行わなければなりません。変更の都度、変更内容に応じた登記費用が発生します。

3.社会保険料の発生

個人事業の場合、従業員が5名未満であれば社会保険の加入義務はありません。一方、法人成りすると従業員の数にかかわらず社会保険の加入義務があります。

社会保険に加入すると社会保険料の約半分を会社が負担することになります。これまで社会保険に加入していなかった場合、だいぶコストアップ感があると思います。

しかし、社会保険の加入は、従業員の立場からすれば会社が社会保険料を半額負担してくれますので嬉しいことです。結果、職場への定着の意識が高まりますし、新規雇用する場合にも有利に働くといったメリットもあります。

4.均等割が発生

法人成りすると、国税へ法人税、都や県の税務事務所へ事業税と住民税、市町村に住民税を支払う必要があります。

利益が発生していなけば基本的には税金を支払う必要がないのですが、住民税には「均等割」という利益が出ていなくても支払わなければならない税金があります。均等割は資本金の額や従業員の人数によって変わりますが、最低でも7万円は発生してしまいます。

5.税務申告コストの増加

個人事業の場合は、確定申告書を作成して所得税を納めることになります。一方、法人成りしますと、法人税・地方税の申告書を作成して法人税や住民税・事業税を納めることになります。

確定申告書はそれほど複雑ではないためご自身で作成される方も多いですが、法人税や地方税の申告書は非常に複雑な仕組みになっており、また申告書以外にも貸借対照表、損益計算書、勘定科目内訳書など提出しなければならない書類が増えます。そのため、一般的には会計事務所に手数料を支払って依頼することが多いです。

この様に、税務申告に関して会計事務所に依頼することで追加のコストが発生してしまいます。会計事務所への顧問料は、申告のときだけのお付き合いであれば割高に感じるようですが、日頃より密にお付き合いしていれば、大小様々な事柄の相談相手になりますのであまり割高感を感じなくなってくるようです。要は使い様ですね。

 

法人成りするタイミングは?

 

法人成りするタイミングはいつ頃が良いかとよくご相談されますが、法人成りする目的によって異なってくると思います。

1.事業拡大が目的の場合

法人成りする目的が事業拡大であれば、すぐにでも法人成りをした方が良いケースもあります。なぜならば、大手の取引先との新規契約のチャンスや新規投資のための資金調達などのタイミングを逃さないようにするためです。法人は社歴が長ければ長いほど信用力が増すので、今後の新規取引や金融機関からの資金調達に備え早めに法人成りしておくこともあります。

事業拡大がメインの場合には一時の節税にとらわれず、事業拡大のための事業計画をしっかりと立てて法人成りすることをお勧め致します。

2.節税が目的の場合

法人成りの目的が節税のためであれば、売上や利益の金額で判断することになります。

一般的には、事業所得が安定的に800万円くらい稼げるようになると、法人成りすることで節税効果が出てくると言われています。

それは、利益が800万円ぐらいになると、個人の税率(所得税、住民税、事業税など)の方が法人の税率(法人税、法人住民税、事業税など)より、明らかに大きくなってくるからです。所得税の場合は累進税率となっていますので、所得が増えれば増えるほど税率は高くなりますので、利益が多ければ多いほど節税効果が見込まれます。(注:利益以外にも扶養親族の状況などによっても節税効果が変わってきますのでご留意ください。)

 

最後にですが、節税だけに目が行きますと、法人成りした後にこんなはずではなかった、ということもよくありますので、事前に十分に検討することをお勧めします。

 

まとめ

○法人成りのメリット

  • 信用が高まる
  • 経営が透明化する
  • 事業承継がしやすくなる
  • 税務上のメリット

 

○法人成りのデメリット

  • お金の自由がなくなる
  • 法人維持コストの発生

 

○法人成りのタイミング

  • タイミングは目的によって異なる
  • 事業拡大目的なら事業計画より判断
  • 節税目的なら売上高と利益で判断